国民年金不払い40%超
年金保険料の不払いに歯止めがかからない。フリーターや無職のひと、また自営業者など
(1号被保険者)が入る国民年金は、2011年度も未納率が40%を超えたもようだ。
民主党政権は非正規社員の増加が主因だと説明するが、有効な手立てを講じていない
のが実情だ。若者の間に制度の持続性への疑念が強まっている事実も見すごせない。
不信感が未納を呼び、さらに不信感を高じさせる悪循環に陥っている。 11年度の未納率は、
ことし1月までの集計で42・4%。前年同期の水準より0・7ポイント高く、3年続けての40%
超えは間違いない。 04年に自公政権の主導で成立させた年金制度改革法は、国民年金
の未納率を20%にとどめるのを前提に、将来の保険料と給付水準を設計した。この前提に
ついて民主党は野党時代に見通しが甘いと批判していた。 だが政権について間もなく3年
になろうとしているのに、前提を見直すそぶりはみせていない。かといって未納を減らす努力も、
ほとんど手つかずだ。 日本が標榜する「国民皆年金」は、1961年の制度化から半世紀が
すぎ、名ばかりになってしまった。地方の工夫見切る 国民年金の未納率は、90年代はじめは
10%台半ばで推移していた。転機は02年度。37%に急上昇した。それからは行きつ
戻りつしつつも趨勢は上昇が続いている。02年度に、なにがあったのか。 保険料を集める
主体を市区町村から厚生労働省の外局である社会保険庁(今の日本年金機構)にうつ
したのだ。国民年金制度は厚労省の所管。地方政府(自治体)にゆだねていたのを改め、
中央政府(国)が責任をもつ体制に切り替えたのだが、国のメンツは丸つぶれだった。
当時、社保庁は「加入者からの問い合わせに追われて体制をととのえる時間が少なかった」
などと釈明していた。 じつは、市区町村が担当していた時代は、地元の自治会や町内会を
通じて集めるなど、取りこぼしを出しにくい工夫が生きていた。だが社保庁はこの手法を
見切った。それが未納急増の主因だったが、08年のリーマン危機を機に非正規社員の加入が
増え、自営業者や農林漁業を営むひとに照準を定めたやり方も、今は通用しにくくなっている。
未納急増にあわてた厚労省は、対策に追われた。関連の審議会は未払いのひとには旅券
(パスポート)の交付や運転免許証の更新を認めなければいい、などという案も議論したが、
実現するはずもなく、こんにちにいたっている。 政権交代の前、民主党は社保庁が引き起こし
た「消えた年金記録」の追及に奔走した。この問題を有権者に強く訴えたことが、09年の
政権交代の原動力のひとつになった。皮肉なことに、いざ政権につくと記録問題の後始末に
責任をもたなければならなくなり、肝心の未納対策がおざなりになった面はいなめない。
旧社保庁の統治体制のでたらめさと職員の規律のなさは改めて指摘するまでもない。
年金加入者や受給者の強い批判は同庁の改組につながり、民間色の強い日本年金機構が
10年に発足した。それによって保険料集めの実務は、集金業務に実績のある民間企業に
委託しやすくなった。減免対象すれすれ それでも未納率が上がり続けているのは、
厚労省が収納対策を後回しにしている証左であろう。 国民年金は低所得者への保険料の
減免制度がある。その手続きを担当する首都圏の中核市の担当者は「減免対象になら
ない、すれすれの所得層の未納がとくに増えている」という。 政府の体制不備を未納増の
表の要因とすれば、より根深い裏の要因は年金そのものへの不信の高まりだ。減免対象の
ひとに手続きを勧めても、どのみち年金はもらえないと、手続きさえしようとしない若者が
目立つようになってきた。 この担当者は、年金は国が運営しているのでもらえなくなることは
ないと、再考を促すようにしている。だが国家財政の破綻で年金額の引き下げを決めた
ギリシャを思うと、みずからのことばにも、自信が持てなくなっている。 衆院の特別委員会
を舞台に、社会保障・税一体改革の法案審議が佳境に入った。これまでのところ、
議論の的は消費税の増税法案に集まっており、改革のもうひとつの柱である年金制度の
立て直しは、かすみがちだ。 特別委で小宮山洋子厚労相は次のような答弁を繰り返し
ている。「年金は国があるかぎりなくならない。基礎年金の給付財源の半分は国が出して
おり、将来は払った保険料以上に戻ってくる。そのことを、とくに若いひとにわかりやすく
説明したい」 本当に給付のほうが多くなるのか。小宮山氏が言ったのは、どうやら
自公政権時代の2009年に、厚労省が手がけた年金財政の検証結果にもとづく試算
のようだ。ことし27歳の若者は、国民年金の保険料を40年分きっちりと払えば、
平均寿命まで生きた場合に総支払額の1・5倍の年金をもらえるという数字だ。
ただしその前提は、積立金の名目運用利回りを年平均4・1%と、背伸びさせている。
小宮山氏が多くもらえると力説すればするほど、うさん臭さを感じとる若者が増え、
保険料の空洞化を大きくしている面があるのではないか。
日本経済新聞
2012年5月27日 3:45 PM | カテゴリー:社労士