職場での転倒事故

職場で転倒する事故が徐々に増えている。かつては建設現場などで目立った転落事故などが

減少する一方で、2005年に労働災害のトップとなり、全体の約2割を占めるまでに。背景には

小売業や社会福祉などのサービス業が増えた産業構造の変化があるが、この分野にはパート

など非正規雇用者が多く、安全教育が浸透しにくい事情もあるとみられる。

 厚生労働省や業界は、各地で業種別の研修会を開くなど予防策に力を入れ始めた。

 厚労省によると、11年に全国で起きた労災は12万件弱。現在の統計方法になった1999年に

比べ15%減った。このうち「転倒」は約2万5千件と19%増え、11年全体の5分の1を占めた。

99年に上位を占めていた「転落・墜落」「はさまれ・巻き込まれ」「切れ・こすれ」「飛来・落下」が

軒並み2~4割減ったのとは対照的だ。 転倒事故を業種別に見ると、小売りや医療保健、

社会福祉、飲食で99年比1・4~4・7倍に急増するなどサービス業の増加が目立つ。

具体的には、スーパーで商品仕分け中にぬれた床面で滑ったり、介護施設で1人で入浴介助

してバランスを崩したりといった事故が報告されている。

 背景には、「非正規雇用者の割合が高く、業務に熟練していない人が多いという事情がある」

(厚労省)。従業員の入れ替わりが比較的多いため安全教育が浸透しにくく、製造業などに比べて

作業工程を一律に管理しにくいといったケースもあるという。

 6800弱の社会福祉法人でつくる全国社会福祉施設経営者協議会(東京)は「介護などの

労働市場の急拡大に労務管理が追いつかない面がある」と認める。介護施設では、統計には含まれ

ない腰痛なども急増しているという。

 同協議会は「リスクが高い環境を放置すれば、逆に人材が流出する」として、福祉器具の活用を

呼びかけたり、労務管理講座を開いたりと啓発に力を入れる。 厚労省も各地で具体的な対策に

乗り出した。福岡労働局では、管内に12ある労働基準監督署で業種ごとに、労災の特徴や予防策

を学んでもらう研修会を実施。作業風景のイラストから危険箇所を書き出すといった参加型の危険

予測も取り入れ、労務管理担当者らに意識改革を促している。

日本経済新聞