メンタルヘルス検診

 長時間労働が続き、ひどい疲れやだるさを感じている30代の会社員。上司から、

会社の健康診断でメンタルヘルス(心の健康)の検査も必ず受けるように指示された。

もし不調を指摘されれば、今の仕事を外されるのではないかと不安だ。受診を拒むと

問題になるのだろうか。仕事のストレスが原因で心の健康を害する社員が増えている。

疾患の種類や程度も様々だが、症状が悪化すれば本人も苦しいうえ、企業の痛手も

大きい。社員の心の健康を守る対策は欠かせない。 心の不調が疑われる社員は、

作業効率や勤務成績が著しく下がったり、職場内や取引先との関係が悪くなったり

することが少なくない。発症が業務上の理由であれば企業側の責任は重くなる。

社員の症状悪化や訴訟を招かないようにするうえでも、メンタルヘルス検診を早めに

受けることは有意義な対策だ。労働契約法は、企業は社員の安全に配慮する義務を

負うと定めている。社員のプライバシーに十分注意しながら、医師の診断や治療を

受けさせなければならない。社員も自分の健康を保つよう努める義務がある。

こうした関係から、企業が健康を管理するためにメンタルヘルス検査を受けるように

指示すれば、社員は拒めないと一般に考えられている。政府もメンタルヘルス対策を

強化するため、検診を法律で明確に義務付ける方針だ。今回の衆院解散で廃案と

なったが、労働安全衛生法改正案では医師や保健師による社員の「メンタルチェック」の

実施を企業に義務付け、社員も検査を受けなければならないとする内容を盛り込んでいた。

将来、法改正が実現すれば、医師は社員が「へとへとだ」「憂鬱だ」といった状態が

最近1カ月間にどの程度あったかを調べ、診断結果を本人に知らせる。産業医などによる

面接指導が必要かどうかも伝える。社員が医師による面接指導を受けたいと申し出た

場合、企業は面接を受けさせ、医師の意見に基づいて働き方を見直すなどの対応を

しなければならない。面接指導の申し出を理由とした不利益な取り扱いも禁じている。

労働法に詳しい今津幸子弁護士は「どういう場合が不利益な取り扱いになるのか

判断が難しい点があり、現場で混乱が起きる可能性がある」と懸念する。

厚生労働省によると、企業が検査を実施しなかったり、社員が受診を拒んだりしても

罰則はない。法改正で検査がどの程度機能するか不透明な面もあるが、企業も社員も

働く人の心の健康を守り、より働きやすい職場をつくるよう協力することが大切だ。

日本経済新聞