中小企業の退職金減額

 中小企業向けの退職給付の廃止・縮小が続いている。企業年金では、厚労省が厚生年金

基金制度を今後10年で廃止する方針だ。運用難から損失が増え、制度の運営に苦しむのは

中小企業退職金共済制度(中退共)と同じ構図。公的年金の支給が減るなか、会社員の

老後の安心をいかに守るかは難題だ。 退職給付は退職一時金と企業年金に大別できる。

中退共は退職給付を退職時に一時金として受け取るしくみだ。企業が従業員のために掛け金

を払う企業年金では、適格退職年金(適年)や厚年基金などがある。だが、適年は2012年

春に廃止。厚年基金の数も今年3月末時点で576と10年前と比べると3分の1以下に

減っている。 適年や厚年基金は中小企業を中心に従業員の会社への忠誠心を高める策

として普及した。しかし、企業年金はバブル崩壊後に株式市場の低迷などで運用悪化に

苦しんでいる。適年を持っていた企業の3割は中退共に移ったものの、中退共も運用難から

支給減額に踏み込まざるを得なくなった。適年を持っていたほかの7割の企業の多くは

企業年金自体をもつことをやめた。 確定給付企業年金や確定拠出企業年金も中小企業の

間で必ずしも普及していない。厚年基金が廃止になれば一段と中小企業の退職給付は細る。

勤め先で企業年金がなくなれば、老後への不安から住宅購入などに二の足を踏み、景気の足を

引っ張る恐れもある。 賃金の後払いとされる退職給付の利点を生かしつつ、持続可能な

仕組みを探る――。そんな方向に向けた企業年金制度の再設計は、12月の衆院選の結果に

かかわらず待ったなしだ。

日本経済新聞