総合支援資金貸付
失業者や低所得者に生活資金を貸す国の制度で、2011年度末の返済率が30%台にとどまっていることがわかった。
リーマン・ショックで増えた失業者対策として09年秋に始まったが、雇用環境の改善が遅れるなどして、返済が滞っている。
貸し付け原資は全額国費で、回収できなければ国民負担になる。厚生労働省は来年度から家計相談を行い、返済率を
高める考えだ。 この「総合支援資金」貸付は金融危機後の失業対策の一つ。11年度末までに全国で8万6千件、
約550億円の貸し付けがあった。利用者は借りた時から1年半後には返済を始め、20年以内に完済する仕組みだ。
返済率は当初返済が予定されていた額のうち、実際に返済された額の割合。貸付額が多い地域の11年度の返済率は、
東京都が47%、大阪府が41%、京都府が37%、福岡県が32%など軒並み5割を切っていた。11年度末時点の返済率は
全国平均で30%台にとどまったもようだ。 返済率が低い背景には、利用者の就労が進まず、安定した収入が得られて
いないことがある。金融機関からお金を借りられない人を対象にしているため、構造的に返済率は低くなりやすい。雇用環境
の改善が遅れていることも影響している。 09年秋以前の貸付制度は実績が伸びなかったことを踏まえ、リーマン・ショック後、
連帯保証人がいなくとも借りられるように見直した。無職で住まいや収入がなくても、連帯保証人なしで最大280万円
(単身世帯)を借りることができる。 厚労省によれば利用者の9割程度に連帯保証人がいない。首都大学東京の岡部卓教授は
「人にお金を貸す時には、不動産を担保にしたり、連帯保証人を置いたりするのが普通で、制度的に欠陥がある」と指摘する。
貸付業務にあたる各都道府県の社会福祉協議会は人員も少ない。貸し出す際には自立に向けた計画を立てることが必要だが、
郵送した返済通知が返ってくるケースが多いという。ある県の担当者は「電話をかけても他人を装われることがある」とこぼす。
失業者を装い現金をだまし取るなどして逮捕者が出る事例も相次いでいる。 福岡県社協では失業者の借金を必要以上に
増やさないため、最大1年間貸し付けを受けられるところ、半年程度で打ち止めにしている。担当者は「就職意欲が上がる」と
話す。群馬県社協も滞納者の生活状況を把握するため、全戸訪問を実施しているという。 厚労省も返済率が低い状況を問題視し、
来年度から各地に家計の相談員を配置する方針だ。失業者の多重債務の整理や家計簿の管理を支援することで、無理のない範囲
での貸し付けと返済が可能になるとみている。
日本経済新聞
2012年12月7日 4:27 PM | カテゴリー:社労士