企業内保育所

運営の負担重く 企業が社員のために設ける「企業内保育所」の普及が伸び悩んでいる。初期投資や

運営費の負担が重いうえ、利用者の安定確保が難しいことが背景だ。大企業に比べ、中堅・中小企業

でその傾向は強い。政府が掲げる「待機児童ゼロ」と「女性の活躍による経済成長」に向けて有効活用

が求められる。(中島裕介) 「おはよう。今日はニコニコして良い子だね」。化粧品会社のアルビオンは

2009年、東京・銀座の本社から徒歩5分のビルの1階に企業内保育所を開設した。朝8時ごろから、

ママに連れられた子どもたちを保育士が笑顔で迎える。 運営は保育大手のポピンズに委託。

武田薬品工業の本社など近隣の8社と契約し、自社以外の子どもを含めて約15人が常時保育を利用する。

JR東日本は東京の新宿や田端のほか、仙台の企業内保育所で24時間保育を週2回実施。夜勤にも

対応している。夜遅い時間や土日も預けられるなど細かいニーズに対応できるのが、企業内保育所の

大きな特長だ。導入率3.1% ただ大企業の間でもまだ「当たり前の施設」とは言い難い。厚生労働省の

調べでは、病院を除いた企業内保育所の数は11年度末で1610件。10年間で約2割増えたが、ここ数年

は伸び悩み、足元では減少に転じた。企業に占める導入率でみてもわずか3・1%だ。 社員の職場復帰

のため女性活用に積極的な大企業を中心に広がったが、資金負担の重さが普及を阻む。経済産業省が

企業に聞いた「保育所の設置を断念した理由」のトップは「設備・運営費の負担」。「利用者の安定確保」

も多かった。 国の基準を満たした「認可保育所」と比べると支援格差は大きい。社会福祉法人などが

認可保育所を新設する際は費用の原則75%が国や自治体から支援される。一方、企業内保育所では

大企業の場合、初期投資の支援は3分の1。運営費への支援も格差が大きく、企業内保育所は原則5年

で支援が打ち切られる。 アルビオンの場合、東京都から年間700万円の支援を受けるが、数カ月で使い

切り、持ち出しという。それでも出産女性の復職率がほぼ100%にまで高まり、戦力維持のため継続している。

中小厳しく 中小企業はより厳しい。相模原市の工業団地内にある協同組合Sia神奈川は、共同運営の

保育所「おひさま園」を新設。運営費を工場の専有面積で折半することで中堅・中小ながら企業内保育所の

新設にこぎ着けたが、それでも「支援を求める声は強い」(協同組合幹部)という。 第一生命経済研究所の

的場康子上席主任研究員は「複数企業による共同運営の保育所が望ましい。利用する子供を確保し、

費用も分担できる。そんな保育所を増やす政策も必要だ」と分析する。補助金 15年から増額保育士の

数や設備など条件 政府は14日に閣議決定した成長戦略で「事業所内保育施設への支援」を

待機児童対策の柱の一つに掲げた。この一環として2015年に、企業内保育所への支援策を拡充する。

ようやく対策に動く格好だが、具体的な制度整備はこれからだ。 計画では保育士の数や設備など一定

の条件を満たす施設に、税金の投入も交えた補助金を支給する。自社の子どもとともに近隣の子どもも預

かっていることが、最低条件になる見通しだ。 保育所は国の認可保育所と、それ以外の認可外に分かれ

るが、企業内保育所は認可外の一つ。企業内保育所の児童数は全国で約1万5千人。まだ空きがある施設

も多く、待機児童解消の戦力となりうる存在だ。内閣府の試算では、いま働きたくても働けない342万人の

女性の力が発揮されると、5%労働力が加わり、国内総生産を約1・5%押し上げるという。 ただ新たな

支援策の条件が厳しすぎると、企業内保育所の普及につながらない可能性もある。経団連は「条件に

柔軟性を持たせ、行政手続きも簡素にしてほしい」と要望。「国、市町村が企業内保育所の所在と実態

を把握すべき」と提言した。

日本経済新聞