派遣制度改革案、専門業務も3年限定

労働者派遣制度をわかりやすく改めるため、労働政策審議会が見直し作業に入った。議論のたたき台

となる有識者研究会の報告書では、派遣社員の働きやすさと企業による活用のしやすさの両方を打ち

出した。定めがなかった専門業務の派遣期間を最長3年に制限するなど働き手に不利な面もあり、

雇用安定には一層の工夫が必要との指摘も出ている。(田中浩司) 「今の派遣ルールでは、職場に

かかってきた代表電話もとれない。それを知らない正社員もいて気まずくなってしまう」。神奈川県で

貿易事務に就く40歳代の女性派遣社員はこぼす。 貿易事務は政令で定めた専門26業務の一つ。

秘書、通訳、事務用機器操作、ファイリングなども含まれる。これらの業務は派遣期間に制限がなく、

同じ職場で長く働ける。専門業務ではない電話応対など、決められた仕事以外にかかわれば規則

違反となるため、実際の職場ではさまざまな不都合が生じている。区分の撤廃浮上 そこで、この専門

26業務区分をなくす案が出ている。26業務のなかには今では専門性があるのか疑問が出ている仕事

や、どこまで携わっていいのかわかりにくい業務もあるのが実態だ。派遣社員も派遣先企業も、複雑で

混乱しているとの声が上がっている。 こうした見直し案は、厚生労働省の研究会がまとめた報告書で

示された。これをたたき台として8月30日、厚労相の諮問機関で労働者、経営者、公益の代表委員で

構成する労政審が制度見直しの議論を開始。年内にとりまとめ、政府は来年の通常国会に改正法案

を提出する考えだ。 現行の制度は、職務の内容で専門26業務とそれ以外の一般業務に区分けし、

26業務は派遣期間に制限がなく、一般業務は最長3年としている。報告書は、派遣会社との雇用契約

が有期の場合、仕事の内容にかかわらず、その人が同じ派遣先で働ける期間を一律3年までにするよう

求めた。 26業務は、有期雇用契約でも実際は派遣期間に制限なく働けた。改正されれば、3年で

職場を変える必要に迫られる。 厚労省の調査では、2011年6月1日時点で専門26業務で働く人は

約64万人。このうち同じ職場で長く働いている常時雇用者は約45万人を占めており、改正の影響は

大きい。東京都内で働く30歳代の女性は「この職場だから仕事を続けたいのに、3年までに限られて

しまうと残念」と話す。 研究会はこうした問題に対し、3年で派遣が終了した人の雇用確保の取り組み

を、派遣先企業や人材派遣会社に求める考えを盛り込んだ。だが、派遣先企業からは「3年経過後に

直接雇用を迫られれば、従来の専門業務で派遣社員の活用が逆に難しくなってしまう」(金融機関)と

の指摘も出ている。見方はさまざま 改正のたたき台に対する見方はさまざまだ。派遣社員を受け入れ

る企業からは、任せる仕事の範囲や期間がはっきりし、便利になるとの声が目立つ。一方で「3年ごとに

派遣社員を入れ替える必要が生じれば、人繰りが大変になる。(長期間働いてもらえる)現状の方が

都合がよい」(建設会社)という意見もある。 人材派遣会社では、事業拡大への期待感がある半面、

「派遣終了後の雇用確保措置が義務付けられれば、企業への派遣期間を3年よりも短くする動きが

出かねない」(大手の法務担当者)との指摘が漏れる。派遣料金の上昇や採用する人材を厳選する

必要に迫られるといった懸念もある。職場紹介難しく 地方などの市場規模が小さいエリアでは、3年

の派遣期間終了後に次の仕事を探しても同じ技能を生かせる職場の紹介が難しいのが実情だという。

「派遣スタッフの期待に添えないケースが発生するリスクが高まりそう」との声も聞こえる。 連合は

「派遣社員の処遇改善については、きわめて不十分な検討にとどまっている」と報告書を批判。

労働問題に詳しい水口洋介弁護士は「実効性のある雇用安定措置がとられなければ、派遣人材が

入れ替わるだけになり、新たな失業者が生まれかねない」と話す。 派遣社員、人材派遣会社、

派遣先企業などの間で異なる利害を調整し、経済活性化に向けて労働者派遣制度をどう生かして

いくのか。多様化する働き方に合わせた内容にするとともに、受け入れる企業なども人材を柔軟に

生かせる仕組み作りが求められる。

労働者派遣制度は、産業構造の変化や多様な働き方に対応するために、1985年に導入された。

労働者供給事業は職業安定法が禁じているが、人材派遣会社がスタッフを雇い、専門性が高く

派遣先の正社員を代替しない業務に限って例外的に認める形で始まった。2011年6月1日時点の

派遣労働者数は約137万人に上る。 労働者派遣法は、景気変動や政権交代などを背景に、

比較的短い期間に規制の緩和と強化を繰り返してきた。99年に派遣期間を1年に限って派遣対象

業務を原則自由化。一時的な労働力の需給調整の役割を高めるとともに、柔軟な働き方を後押し

した。03年には自由化業務の派遣期間を最大3年まで延長し、製造業への派遣も解禁した。

だが、08年に起きたリーマン・ショックでいわゆる「派遣切り」が発生。派遣社員の厳しい待遇が

社会問題となった。こうした事態を受けて、12年10月からは、日雇い派遣の原則禁止などを打ち

出し、派遣労働者の保護を強めた。 労働者派遣法は正社員の仕事に配慮しつつ派遣社員を

保護するという立場を採っている。しかし、職場の実態を見ればそれを両立させるのは難しいのが

普通で、考え方は形骸化しているとの指摘もある。

日本経済新聞