社員のモチベーション向上策

実績以上に人格重視–サイバーエージェント藤田社長が語る「やる気を引き出す組織風土の作り方」

「Developers Summit 2014」2日目の講演にサイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏が

登壇。「やる気を引き出す組織風土の作り方」と題し、同社が取り組む社員のモチベーション向上策を

語り尽くした。社員のやる気を引き出す「組織」「人事」「社風」

サイバーエージェント代表取締役社長 藤田 晋氏 「24歳で会社をつくって、マザーズに上場してから

16年たった。経営者仲間からは『非常に頑張る社員が多いのはどうして』とよく聞かれる。社員のやる気

がでる組織づくりには力を入れて取り組んできた。不思議なほど社員にやる気がある会社だと自負して

いる。実は組織づくりのことを公表するのは今日が初めてだ」

藤田氏は講演冒頭でそう指摘しつつ、サイバーエージェントにおける組織風土づくりのポイントを語り

始めた。同社の2013年度の売上高は1624億円、従業員数は2661名といまや大企業と言っていい

存在だ。「キラキラ女子」などと女性社員の活躍が話題になったことはあるが、藤田氏がどういった考え

で組織づくりを進めてきたかははっきりつかみくにい面もあった。

藤田氏はまず、同社の組織づくりの基本方針として「大型買収はしないこと」「ヘッドハンティング

しない」ことが前提にあると説明した。

「大型買収をしたり、人材を外から連れてくると、会社と空気が合わずに、結局うまくいかないという考え

がある。買収やヘッドハンティングは苦手。人材はなかで育てる、事業もなかで育てるということを大事

にしている」という。また、議論の大前提として、会社の業績が伸びており、それによって社員が十分な

対価を得ていることが必須条件だとした。

「業績がいまひとつのときに社員のモチベーションをどう高めるかという話ではない。人の

モチベーションが高まるのは、自分の仕事が会社に寄与していたり、サービスがみんなに使われて

いたりというとき。また、仕事の喜びはカネではないというが、安い給料で頑張れというのは明らかに

おかしい。自分の業績を伸ばし、それによって十分な給料がベースにあることではじめて、やる気の

話になる。この2つは避けて通れない。事業を伸ばすこと、十分な給料を払うことから目を背けては

いけない」

具体的な取り組みは、「組織」「人事」「社風」の3つに分けて説明した。「組織」については、

平均年齢が30.3歳で、40代以上は全体の3%しかいないという特殊な環境だという。研究室のような

雰囲気があり、同世代が多いため世代間コミュニケーションがストレスになることはほとんどない。

また、終身雇用を打ち出しており、その安心感が社員のモチベーションにつながっている部分は

あるとする。

男女比は、69:31と男性が多いのが現状だが、理想は半々だという。「男性ばかりだと、オフィシャル

な場で下ネタが続くなどモラルが下がる。半々だとモラルは高くなる」という理由からだ。女性の

エンジニア採用も意識的に行っているという。

採用については、定期的な新卒採用を創業来行ってきた。人材採用のコストが安くなるという理由

もあるが、見逃していけないポイントは、新卒が入ることによる組織活性化の効果だという。「後輩を

育てることは面倒臭いことと思われがちだ。だが、新卒が入ると、みんなで育てようという意識が

広がり、組織が活性化する。それが毎年起こるという効果は大きい」とした。

組織の雰囲気としては、ポジティブな社員がマジョリティになるようにしている。「人は不思議なほど

まわりに影響されやすい。ポジティブな人がいるとそれだけで頑張れるようになる。一方で、ネガティブ

なことを伝染させたがる人がいる。伝染してネガティブがマジョリティになると対処がほとんどでき

なくなる。伝染する前になんらかの手を打つようにしている」。なお、100%ポジティブというのは、

逆に”あやしい”組織になるので、あくまでポジティブがマジョリティであることにとどめるのがミソだという。

人材の抜擢については、「実績以上に人格重視」だ。これは明確にメッセージとして打ち出している

という。一般的には、実績がある人を抜擢するほうが周囲の理解が得られやすく、組織がうまく回ると

思いがちだ。だが、藤田氏によると、「組織はどうしてもピラミッド構造になるので、人格がおかしな人

を上げると、上からすべて腐っていってしまう」のだという。たとえば、自分の成果を上げるために下を

潰したりといったことが起こる。逆に、人格者が上にいると、スタープレーヤーを引き上げるし、組織

全体を見て動くので、組織の活性化につながるのだという。

組織に続いて紹介したのは「人事」。同社が取り入れている人事制度や福利厚生の仕組みを紹介

した。 よく知られたものでは、役員数の上限を8名にする「CA8」がある。役員を8名に限定したうえで、

役員改選がある2年に1回、1~3名を入れ替えることをコンセプトに始めたものだ。「現役の役員は

不思議なほど一生懸命仕事をするようになった。20代でも抜擢する方針を掲げていたので、

社内では、次の2名を目指して頑張るようになる。自分にチャンスがない場合でも、誰が外れるかを

予想するなどして盛り上がることもできる。上が一生懸命働いていると下も働く。役員を対象とした

人事制度だが、結果として、組織全体が活性化する施策になった」とした。

社員を対象にしたものでは、2004年から行っている「CAJJプログラム(サイバーエージェント事業

&人材育成プログラム)」がある。これは、新規事業を育成するためのプログラムで、Jリーグの

ディビジョンのように段階的な目標や予算を設け、新しい事業を行いたいもののチャレンジを支援

していくもの。J5からJ1までのグループがあり、J1になるほど投資額も増えるが、昇格するには

グループごとに設定された目標をクリアする必要がある。

「ポイントは目標と撤退ルールが決まっていること。目標があるのでモチベーションがでるし、

撤退ルールがあるので、任されたはいいが途中ではしごを外されて腐るといったことがない。

会社としても、新入社員をすぐ社長に据えることができるようになった。また、赤字の上限が

決まっているので、事業撤退によるマイナスインパクトを織り込みやすくなった」

そのほか、役員8人がそのときの”旬な人材”でチームを作り、1泊2日の合宿を行って中長期的

な意思決定を行う「あした会議」や、社員のキャリア適正を月1回チェックして希望する部署への

異動による適材適所を実現する社内キャリアエージェント制度などを紹介した。

福利厚生については「2倍の報酬を払って中途採用した人材に辞められるよりは、人材を

育てて会社を辞めたくなくなるほうにコストを払ったほうがむしろ安い」という発想で取り組んで

いるという。会社から2駅内には月3万円の家賃補助がつく「2駅ルール」や、入社5年後は

どこに住んでも月5万円の家賃補助が出る「どこでもルール」、入社5年後は毎年5日間の

特別休暇がでる「毎年・休んでファイブ」などがある。

3つの「社風」については、社内イベントの実施や、飲みニケーションや社内結婚の奨励、

若手の抜擢といった取り組みを紹介した。 社内イベントとしては、半年に1回の社員総会で、

活躍した社員を表彰するほか、何かイベントがあるたびに社内ポスターやトピックスメールを

発信して、盛り上がり感を演出することに力を入れている。「とにかく演出が大事。

社員総会は1回実施すると1000万円コストがかかるが、いい表彰式になれば頑張りを

引き出せる。会社にとっては安いもの」とした。

社員のSNS活用も基本的に自由で、藤田氏本人もオープンなブログで制度や施策の導入意図

などを説明している。「納得がいかないまま働いているとモチベーションが下がる。自分のことば

でオープンなブログに書くことで社員に納得してもらう」という。

飲みニケーションも奨励している。「どんな組織もわだかまるもの。意思疎通ができるチームは

なかなかできない。なんだかんだ飲みに行くと『そんなに悪いヤツじゃないじゃん』となる。

何かプロジェクトを達成したら、飲み代も支給している」ほどだ。ユニークなのは、飲み会翌日は

自動的に半休になる制度があり、それとセットで飲み代が支給されることだろう。

社内結婚も多いという。「社員同士が結婚する会社は、安心して長く働ける職場」との考えが

あり、会社としても奨励している。かつては、社内恋愛に否定的で「手を出したら左遷」といった

雰囲気もあったという。だが、そのために、恋愛が地下活動化し、ぎすぎすした雰囲気になって

しまった。その反省があるという。

若手の抜擢については「ひるまない、といいつつ、やはりひるんでしまうもの。それをひるまず

やることが大事」だという。1年目だろうと抜擢し、新規事業をまかせたり、子会社をまかせたりする。

そして、それをやり続け、変化に慣れさせることが大事だという。若手の抜擢をはじめた当初は、

「なぜ自分ではなく、彼なのか」と怒り出す社員もいたが、まかせることが常態化するようになって

からは「今回はないが、次回は自分だ」と思うようになった。

最後にモチベーション向上に「効果がありそうだが、じつはないもの」をまとめて紹介した。

たとえば「離職率の低さ」。一般には離職率が低いことは「いい会社」と思われがちだが、

藤田氏の考えでは「働かない社員が居座っている可能性が高い会社」になる。離職率が低い

からいいのでなく、「優秀な社員が満足することが大事」なのだ。

次に「ストックオプション」。権利を得ることは、入社のタイミングによるし、必ずしも優秀な人が

持っているとは限らない。このため不公平感を生んでしまう。「(株を売却して)辞めるタイミングを

わざわざ作りだす施策」でもある。また、大金を得られる可能性があるから頑張れるというのは

危険な発想だという。「カネ目当てになりやすい。もともとカネ目当てではなかった人までカネ

目当てになってしまう」。

目先の目標達成で支給される「人参ボーナス」もそうだ。初回は効果がでるかもしれないが、

何回もやっていると「前回より少ない」と思うようになる。やるならば「さっと渡して、さあ終わり」

といったように、不公平感につながらないようにする工夫が必要だという。また、

ヘッドハンティングについても「カネで引き抜くとカネが原因で辞めていく。会社が悪い状態

のときに持ちこたえられない。短期プロジェクトなど限定的にはありかもしれない」とした。

「仕事とプライベートのきりわけ」については、「どっちがどっちかわからないのが理想」との

考えだ。「ワークライフを過度に意識すると、境目がはっきりしてしまって、逆効果になりやすい。

どっちかわからないくらいでないと、長く続かない」とのこと。

なお、「社員に美人が多いこと」については「(考えが)浅いな、と思う」と語気を強め、会場の

笑いを誘った。モチベーションを高めるために社内に美人を揃えても、「いいところを見せたい

という人もいるかもしれないが、続かない」のだという。

藤田氏は「モチベーションを高く仕事に取り組めたら、こんなに幸せなことはない。みなさんも、

自分のチームを持っていたら、環境づくりを手を抜かずにやってほしい」と訴え、講演を

締めくくった。

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