長時間労働容認

長時間労働容認

働く人守る方向に逆行する

政府は、一部の労働者について、長時間労働を防ぐ法律の例外扱いとする新しい制度を

導入する方針だ。「時間でなく成果で評価される働き方が必要」との産業界の要望を受けた

もので、近くまとめる安倍政権の成長戦略に盛り込まれる。

同時に厚生労働省は、労使で決めた時間だけ働いたとみなす裁量労働制についても、

企業の競争力強化につながる「新たな枠組み」を検討すると表明した。長時間労働から

働く人を守るための法的規制が危機にひんしている。

■産業界の要望に沿う■

日本は少子高齢化の影響で、若い労働力の不足がはっきりしてきた。国全体で成長を

追い求めながら働き手が限られるならば、そのしわ寄せは一人一人に労働時間の延長

などの形で及ぶ。今こそ政労使の3者が長時間・加重労働を防ぐ仕組みの強化に乗り出

すべきであり、安倍政権は逆行している。

政府の産業競争力会議を舞台に経済界が求めているのは

「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれる仕組みだ。

労働基準法は働く時間を原則「1日8時間、週40時間」と定めており、管理職を除く

従業員がそれを超えた場合、企業は残業代などを支払う義務がある。しかし、提案された

内容はその適用外となる仕組みで、給与はあくまで仕事の成果で決まるのが特徴だ。

厚労省は「世界レベルの高度専門職」に限って認める方向だ。対象として年収数千万円

の外国為替ディーラーなどを想定しているという。

だが産業界側は対象を「将来の幹部候補生や中核的人材」と示しており、網をもっと

広くかけようとしているのは明らかだ。

厚労省が制度見直しに着手する裁量労働制をめぐっても、企業の人件費削減に使われ

サービス残業を生んでいる、との批判が絶えない。産業界の視点に偏らない慎重な

議論が必要だ。

■家族生活に負の影響■

長時間労働は過去の問題ではない。厚労省によると、一般労働者の年間実労働時間は

2030時間(2012年)で20年近く横ばいのまま。子育て世代である30代男性の約6人

に1人は、週60時間以上も働いている。

長時間・過重な労働は本人の健康を脅かすだけでなく、家族の生活にも負の影響を及ぼす。

具体的な検討作業の中で政府は、長時間労働を防ぐ制度の改善策や新たな仕組み

も取り上げるべきだ。

労使が協定を結ぶことで残業や休日労働を可能とする「三六協定」は長年、時間外労働

の増加を抑える効力が不十分と専門家に指摘されており、是正の余地がある。

欧州では、勤務終了時から翌日の始業までの間、決まった休息時間を保障する

「勤務間インターバル規制」が導入され、加重労働防止に効果を挙げている。

日本でも実施企業が出始めており、法的整備の価値が高いのではないか。

Miyanichi e-press社説