定額残業制と是正勧告

新聞社の「定額残業制」に労基署が「是正勧告」 どういうことなのか?秋田県の地方新聞

「秋田魁新報社」が従業員に対し、適切な残業代を払っていなかったとして、

労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが、11月上旬に分かった。

報道によると、秋田魁新報社は、実際の労働時間にかかわらず、部署ごとに一定額を

支払う「定額残業制」を、労使合意にもとづいて採用していた。しかし、秋田労働基準監督署は

「一定の残業時間を超えた場合は未払いに該当する」として同社に是正勧告をした。

勧告を受けて同社は、従業員268人のうち約8割に、今年1月~6月分の未払い残業代と

深夜割増賃金、合わせて約7500万円を支払うと発表。「今後は労働時間の管理を徹底

していく」と話している。

今回のように、労使合意に基づいて、定額残業制が採用されていても、「追加の残業代」が

出るのはなぜだろうか。定額残業制は、そもそも法律で認められない制度なのだろうか。

労働問題にくわしい笹山尚人弁護士に解説してもらった。

●定額残業制はそもそもNGなの?

「労働基準法13条には、次のように書いてあります。『この法律で定める基準に達しない

労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする』」

つまり、労基法の「基準」に達していない労働契約は、無効になるわけだ。そもそも

定額残業制はダメなのだろうか?

「たとえば、『残業の時間の実態はどうであれ、残業代として支払うのは定額で○円

です』という合意があったとします。

一方、労働基準法37条には、『残業時間に応じ割増賃金を支払わなければならない』

という規定があります」

その2つが衝突したら、どちらが勝つのだろうか?

「もし、現実に働いた残業分の割増賃金が、定額○円分を超えていないなら、合意は有効です。

しかし、現実に働いた分が、定額○円分を超えている場合、『その部分』については、

法の規定に達しない合意として、無効となります」

労使合意のうち、労働基準法37条のラインを超えた部分が、部分的に無効になるというわけだ。

「労使合意は、それが個別の契約であれ労働協約であれ、法令の定める水準に達していることが

必要です。労使合意と法規では、法規の効力が優先されるわけです」

●労働基準法は「最低ライン」

労働者と使用者の合意があっても、法律が優先されるのはなぜだろうか?

「労働者は使用者に対して不利な立場にあります。自由な契約内容を認めてしまうと、

一方的に不利な契約内容を押し付けられかねません。

そこで、憲法27条2項は、労働条件を法律によって定めるとしています。

労働基準法は、憲法27条2項のいう『法律』の一つで、労働者の生活の最低水準を

維持することを目的として定められたルールです。

したがって、労働基準法の水準を下回る労使合意は、効力を認められません」

合意が無効だと、どうなるのだろうか?

「そういった場合、労働条件は労働基準法の定めが適用されることになります。つまり、

今回のような場合、労働基準法37条が適用され、割増し残業代が支払われることになります」

このように、笹山弁護士は解説していた。

(弁護士ドットコムニュース)