夫婦控除

働き方と税・社会保障の一体改革を(社説)

 政府・与党による所得税改革の議論が始まった。
 人口が減少する日本の経済を活性化するには、女性や高齢者にもっと活躍してもらう必要がある。子を産み、育てる世帯も支援しなければならない。働き方と一体で所得税の抜本改革に踏み切ってほしい。
 日本の経済社会の構造は大きく変わった。かつて夫婦と子だけの世帯は4割を超えていたが、いまや3割未満にとどまる。夫婦共働きの世帯の数は専業主婦の世帯の数を大きく上回る。

配偶者控除を見直せ
 そんな中で、政府・与党は専業主婦の世帯の税負担を軽くする配偶者控除の見直しを検討するという。1961年にできた税制の弊害は大きくなりつつある。改めるのは当然だろう。
 パートで働く妻などの年収が103万円以下だと、夫の課税所得から38万円の控除を受けられる。その結果、年収を103万円以下に抑えようと就業を調整するパートが多く、「103万円の壁」といわれている。
 日本では労働力の担い手が減り、成長力を押し下げている。女性が年収への意識から働くことを抑える結果、サービス業などの現場で人手不足に拍車がかかっている現状は放置できない。

 安倍晋三政権は非正規の処遇を改善する「同一労働同一賃金」を推進している。
 しかし、いまの配偶者控除の仕組みを残したままだと、いくら非正規の時給が上がってもすぐに年収が103万円に達し、これまで以上に就業を抑えるおそれさえある。働き方改革を掲げるならば、やはり新たな仕組みがいる。

 配偶者控除を見直して、妻の年収に関係なく夫婦の所得から一定額の控除を認める「夫婦控除」をつくる案がある。
 年収を気にせずに女性がもっと働きやすくなる効果は期待できる。もちろん財源にも限りがある。一定の年収要件を課して、高所得者を適用対象から外すなどの対応はやむを得ない。
 制度の設計しだいで多くの個人が負担増を強いられる。政府・与党は夫婦控除以外のさまざまな案も選択肢から外さず、丁寧に議論をすすめてもらいたい。
 年金課税も見直すべきだ。年金受給者に適用される公的年金などの控除は、現役世代の給与所得控除より大きい。高齢者優遇の政策といえる。
 公的年金をもらう高齢者の数は増える一方で、保険料負担を通じて年金を支える現役世代の数は減っている。

 いきすぎた世代間の受益と負担の不均衡は問題だ。低所得の年金受給者に配慮しつつ、少なくとも原則として控除枠は現役世代と同程度に圧縮してはどうか。
 気になるのは、社会保障制度の改革への視点を欠いたまま、狭い税という世界だけで議論がすすみかねない点だ。
 いまや年金や医療などの社会保険料収入は国税収入を上回る。国民負担という点は社会保険料も税金も同じだ。両者を一体的に改革する必要がある。
 たとえば、厚生年金や医療保険などの社会保険には「130万円の壁」がある。パートなどの年収が130万円を超えると年金や医療の保険料負担が生じ、可処分所得が目減りしてしまう。

低所得者対策も急げ
 仮に103万円の壁がなくなっても130万円の壁が残っていれば、就業が抑えられてしまう。保険料負担のあり方を含めて制度を再検討するときだ。
 真に支援が必要な低所得者への対策も急ぎたい。
 国民年金や国民健康保険(国保)には、相対的に低所得者の負担が重い「逆進性」がある。この問題にも、税制と社会保障制度の双方に目配りした政策で対応できる余地は大きい。
 その一例が、生活保護を受けている人らの就労を促す「勤労税額控除」といった仕組みだ。所得が低いうちは社会保険料を減免し、手取りの所得を段階的に増やせるようにする案だ。
 税と社会保障の共通番号(マイナンバー)を使って個人の所得を把握するのが前提となるが、働く意欲をもっと引き出す効率的な安全網をつくれるはずだ。
 ほかにも高齢者雇用と年金制度のあり方、少子化対策の充実のための財源確保策など、働き方改革に絡んだ課題は山積している。
 その際、柔軟で多様な働き方を実現する改革とともに、税制と社会保障制度を一体的に改革する視点を忘れてはならない。

日本経済新聞