少額短期保険

孤独死、不妊、痴漢、知的障害…「こんな保険があったら」少額短期保険に存在感

 生活者や企業からの「こんな保険をつくってほしい」という要望に応えてきた少額短期保険会社の存在感が高まってきた。保険会社は万人を対象にするため、需要があっても小口で収益性が乏しいと判断すれば開発を見送るが、独自性にこだわる少短はニッチ商品でも顧客が求めるなら商品化に取り組む。こうした姿勢で注目の商品が続々と誕生している。

■大手から初の依頼

 SOMPOホールディングスグループから協力要請を受けたアイアル少額短期保険(東京都中央区)が新商品を開発した。少短と従来の保険会社が手を組むのは初めて。

 アイアル少短が開発したのは、介護度改善を応援する国内初の保険「明日へのちから」。要支援・要介護認定を受けている人が自助努力で状態区分を改善した場合、祝い金を支払う。まずはSOMPOケアメッセージとSOMPOケアネクストの入居者・利用者に1日から提供を始めた。保険への加入が介護度改善に向けたリハビリなどに意欲的に取り組むインセンティブになると期待する。

 両社の社長を務める遠藤健氏は「(通常の保険と違い)元気になると保険金が支払われるので、元気な暮らしを取り戻そうと取り組む人が増えるきっかけになればいい」という。アイアル少短はSOMPOでの販売状況を踏まえ、その他の介護施設などにも広げる考えだ。

 SOMPOがグループ内の保険会社ではなくアイアル少短に開発を依頼したのは、要支援・要介護という限られた層をターゲットにしているため。

 同社はこれまで、自殺や孤独死に対応する家主向け保険「無縁社会のお守り」、不妊治療中でも加入できる「子宝エール」といった業界初の商品を多く開発。また未病予防に寄与する保険「ヘルスケア応援団」を手掛けた実績が評価された。

 安藤克行社長は「創業以来、頼まれれば商品開発するといってきた。(2006年の少短業界誕生から)10年たってようやく大手保険会社から認められた」と喜ぶ。その上で「王道の商品は出尽くした。今後はリスク細分やニッチマーケット、ユニークな商品開発が激化する」と予測する一方で、「こうした商品は収益性が見えにくいので開発コストをどうするか。大手は商品化を見送るだろうから少短の出番が増える」と読む。

 これからは少短が市場を切り開いて顧客を取り込むきっかけをつくり、大手が市場を広げる展開になるというわけだ。安藤氏は今回の協業について、「大手は『少短を活用したトライアル』というオプションを手に入れた。ライバルではなく共存共栄できる」と説明する。

 もともと少短は「あったらいいな」という生活者の発想を生かした商品開発を得意とする。ジャパン少額短期保険(同千代田区)が扱っている「痴漢冤罪(えんざい)ヘルプコール付き弁護士費用保険」もその一つ。痴漢に間違われるという事件発生から48時間以内の弁護士費用を補償する。

 日本少額短期保険協会が募集している「おもしろミニ保険大賞コンテスト」で佳作となった作品をヒントに開発した。同社の杉本尚士社長は「満員電車に乗る機会が多いところでは、いつ痴漢冤罪に遭うか分からず巻き込まれると仕事や人生を失いかねない。それを守る保険」という。

 今年5、6月に都内で痴漢を疑われ線路から逃走する事件が相次ぎ報道されたこともあって申し込みが急増、4月までの月間数十件ペースから5月には900件を超え、6月は2200件に達した。保有契約5000件の半分以上を2カ月間で獲得した。同時に「女性から『夫や息子のために加入したい』との声が多く届き、それまでは男性だけだった契約者を女性まで広げた」(杉本氏)ことも寄与した。

■視線の先に生活者

 企業規模が小さく意思決定が迅速な少短はニーズへの素早い対応力が真骨頂といえ、時流に沿った商品を提供できる。杉本氏は「コンテストへの応募作品は時事問題を反映したアイデアも多く、商品開発のヒントが隠されている」と指摘する。

 需要があってもターゲットが限られるため、保険会社では対応できない商品を提供できるのも少短の強み。ぜんち共済(同千代田区)は知的障害者向け保険を専門に扱う。00年に前身の全国知的障害者共済会が発足して以来、ぶれることなく、このニッチ市場を深耕してきた。

 榎本重秋社長は「障害者が抱える課題は奥深い。深すぎて他分野に出る余裕はない」といいながらも、「一つに特化し、専門性を発揮した保険会社として成長する」と明言。必要とする知的障害者74万人に対し、地道に保険の必要性を訴えていった。

 そのかいあって、安心できる会社として口コミが広がり、契約者を獲得。提供する「ぜんちのあんしん保険」の更新率は96.5%と極めて高く、保険会社が入ってきても追随できないビジネスモデルを構築した。

 保険会社が「取り上げるにはマーケットが小さい」「万人向けではない」といって商品化しなくても、独自性を売りにする少短は「小さいが確実に需要がある」と判断すれば積極的に商品を投入する。業界初、日本初にこだわるのは、困っている生活者がいるからだ。

 こうしたベンチャー精神が受け入れられ、同協会のまとめでは17年3月末の保有契約件数は687万件と1年前に比べ8.0%増加、収入保険料は815億円と12.2%増えた。時流に乗った商品をすぐに開発してきたからだ。「あったらいいな」に応える少短に保険会社が注目、商品開発のリトマス試験紙として関心を寄せる。(経済本部 松岡健夫)

■少額短期保険業 無認可共済業者からの転換を促すために創設された。保険期間1年以内(損害保険は2年以内)の小規模な保険を専門に扱い「ミニ保険会社」と呼ばれる。保険金額の上限は原則として、通常の死亡保険が300万円、傷害死亡保険が600万円、損害保険が1000万円。一般の保険会社の最低資本金が10億円であるのに対し、少額短期保険会社の場合は1000万円としている。

産経新聞