2017年 10月

マイナンバー

マイナンバー、背水の陣、個人情報やりとり、来月本格運用、相次ぐ活用策、政府に焦り

 政府がマイナンバー浸透へ捲土(けんど)重来を期す。11月から自治体との間で個人情報のやりとりを始め、いよいよ本格運用に乗り出す。12桁の個人番号で社会保障や税の行政事務を効率化する。ただ度重なるシステム障害で国民の信頼を失い、本人確認のためのカード取得は一向に進んでいない。政府は背水の陣を敷き、カードの用途拡大に突き進んでいる。

普及9%どまり
 野田聖子総務相は2日、自治体ポイント制度の省内での実演会に参加した。「マイレージがたまっているけど、飛行機に乗る機会が少ないから」。特設サイトでマイナンバーを入力し、マイレージのポイントを使い、岐阜県可児市の特産品約9千円分を購入した。

 自治体ポイントはマイナンバーカードと連動させ、クレジットカードや航空会社のマイレージなどのポイントを商店街や通販サイトで使える仕組みだ。9月に始動し、228自治体が参加する。民間が発行する年4千億円のポイントの3~4割は未使用に終わるとされ、総務省は「マイナンバーカードでお金を還流させる」と意気込む。

 政府は最近、これでもかと新手のカード活用策をひねり出している。スマートフォン(スマホ)にマイナンバー情報を記憶させ、スポーツイベント会場でチケットを発券せずに入場できる取り組みを始めたほか、銀行口座開設やコンサートなどチケットの高額転売を防ぐ仕組みを検討。統合型リゾート(IR)ではカジノ施設の入場券として使う案もある。

 マイナンバーは住民票コードや基礎年金番号などの個人番号を一本化し、複数の行政機関のやりとりを容易にするものだ。税などの納付漏れがないと確認できれば、住民も社会保険料の減免などのサービスを手間なく受けられる。2015年10月に国民に番号を通知し始め、16年1月にはカードの交付を開始した。

 ところが、個人認証の基となるカードは今年10月段階で普及率9・9%、1260万枚。16年に掲げた「17年3月末時点で3千万枚」という政府目標に遠く及ばない。カードのシステムに不具合が生じ、交付作業が滞っているうちに国民の関心が低下した。政府は焦りの色を濃くするが、自治体との連携もままならないところがある。

 7日に始まった「子育てワンストップサービス」。マイナンバーカードがあれば、自宅のパソコンやスマホで子育て関連の手続きが済むとの触れ込みだが、全15項目の手続きに対応する自治体は50程度。「本人への聞き取りが必要で、電子申請はそぐわない」(仙台市)と対面を重視する自治体は多い。

見えぬ利便性
 マイナンバーは何のためにあり、カードは何に役立つのか。日本では国民がそのイメージを描けずにいる。

 番号制が浸透する国もある。電子行政先進国とされる欧州・エストニアの事情を探ってみた。同国の国民も最初は「車のフロントガラスの雪かきにしか使えない」とカードを皮肉ったが、銀行振り込みの手数料を抑えるなどのサービスを手厚くしたら、取得が進んだという。結婚・離婚や不動産取引などを除き、ほぼ全ての行政手続きがネットで完了する。

 野村総合研究所の梅屋真一郎・制度戦略研究室長は「日本はカードを持たなければいけない理由が見当たらない。使えば税額控除されるなど、利便性だけでなく得をする動機づけが必要」とみる。カードを持ちたいと思わせる動機が必要だ。

 政府が音頭をとるカード普及策も自治体ごとに対応が異なり、利便性を感じにくい。小規模町村では役場職員が高齢者宅に出向いて交付手続きを手伝うというが、保有者ばかり増やしても肝心の使い勝手は後回しだ。

 先行した住民基本台帳カードは、個人情報漏洩への懸念から、交付率は5%で終わった。政府はその二の舞いを避けようと、国民の利便性向上とお得感という味付けで浸透を図る。役所のシステムを変えただけで宝の持ち腐れに終わるか、電子行政に欠かせないインフラとなって最先端のIT国家への扉を開くか。マイナンバーは今、剣が峰に立っている。

日本経済新聞