年金制度と多様な働き方

未来との摩擦わずかな年金、頼らぬ覚悟――生涯現役が究極の自助

 「年金には期待していません」。企業に所属しないフリーランスのIT(情報技術)エンジニアとして働く斉藤真二郎さん(40、仮名)。「老後に不安はありませんか」。取材班の問いかけにきっぱりと答えた。
 国民年金のみを納付する斉藤さんが老後に受け取る年金は月7万円程度。生活に十分な額とはいえないが、気にしない。ITエンジニアとしての技術を磨きながら生涯働き続けるライフプランを描く。
経営相談で収入
 何歳になっても学び、働くことを続けていく社会に――。英ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授が提唱した「人生100年時代」。約20年後には、日本人の3人に1人を65歳以上が占める。生涯現役で働けるフリーランスは究極の自助であり、人生100年時代を生き抜く答えのひとつだ。
 フリーランスとして働く人の数は推定1100万人を超え、いずれ労働人口の半分を占めるとの見方もある。遠くない未来。斉藤さんが思い描く「生涯現役」の生き方を多くの人がするようになるはずだ。
 上場企業で役員を務めた経験を持つ有賀貞一さん(70)は10社近い企業の経営に携わり、経営相談で収入も得る。同僚の多くが年金生活に入ったというが、「90歳になっても働き続けたい」。稼いだお金は健康維持などの自己投資に回す。
 シニアだけでなく、主婦などの現役世代も私生活と両立しながらフリーランスとして働くことで人材の流動性が高まり、日本経済を力強くする。
 ただ、誰もが年金に頼らず、生涯現役で十分な収入を得られるわけではない。
個人にリスク
 平均寿命が男性で60歳代半ばだった1960年代に確立された現行の年金制度。念頭にした働き方は会社員と自営業者のふたつだけだった。平均寿命が80歳を超え、働き方も多様化していく日本の姿に年金は向き合えているだろうか。
 ヤフーに勤めながら、週末は副業のウェブデザイナーとして働く岡直哉さん(28)。年収は専業の時よりも3割増えた。厚生年金と確定拠出年金で老後に備え、一生涯働き続けるつもりだが「老後は不安」と漏らす。
 政府も2年前に多様な働き方に対応した総合的な個人・企業年金の議論を始めたが、現在、検討が進んだ形跡はない。「権益を守りたいという各省庁の防衛本能が制度改革を進めづらくしている」(政府関係者)
 「高齢化社会のリスクを個人だけが負う」。ニッセイ基礎研究所の金明中氏は警鐘を鳴らす。
 支え手である現役世代は減り、長くなる老後を年金が支えることは難しくなる。10日公示された衆院選で、社会保障政策が十分に議論されるか不安も残る。
 多様な働き方を選ぶ個人が増えていく中、年金は頼れる制度として残るのか。議論を先送りしてはいけない。

日本経済新聞