介護職員と保育職員の定員超過
介護・保育職員「定数超」多く、国の配置基準、形骸化、サービス手厚く。
介護施設や保育園について国が求める職員の配置数と実態との乖離(かいり)が激しくなっている。十分なケアや保育を行うために人員を手厚く配置する施設が増加。実際の運営費は国の人員基準を前提に計算されるため、追加分は施設側の持ち出しだ。成果に応じた報酬設定や人手不足に対応し介護ロボットの活用を進めるべきだとの声が上がる。
「生き残るため」
「生き残るために必要な投資だ」。東京都江東区にある高砂福祉会の保育園で働く篠塚雅弘さんはこう話す。福祉会の保育所で働く保育士は主任を含め約40人。たとえば1~2歳児の場合、国基準では子ども6人につき保育士が1人いる。福祉会ではこうした最低基準の保育士よりも3人多い。少子化やサービス競争の激化で、英語を話せるなど特色をもった人材も雇っている。
認可保育施設は利用者からの保育料と税金で運営費をまかなう。補助金の額は国が定員数に応じて一律に決める。私立保育所の場合、国が補助金の2分の1を支出し、都道府県と市区町村が4分の1ずつ負担している。保育料も国の基準があり、施設が料金を増やすことはできない。
高砂福祉会では人件費の足りない部分は施設管理費からひねり出している。篠塚さんは「保育士の給与分で運営費が増えればもっと人材に投資する」と話す。
そもそも国の人材配置基準だけでは運営が難しいという声もある。「保育園を考える親の会」によると、待機児童の多い都市部の主な100自治体のうち、約8割が国の基準を超える保育士の配置を施設側に求めている。
高齢者施設も事情は同じ。特別養護老人ホームや有料老人ホームでは入所者3人に対し職員1人を配置する決まりだ。介護大手のツクイは運営する有料老人ホーム27施設すべてで1対2・5以上の人員配置が原則で、うち2施設では1対2とさらに手厚い。人員配置が国が定める1対3では、「日常のケアはもとより、レクリエーションなどの余暇活動が十分にできない」(倉持淳執行役員)と指摘する。
民間の有料老人ホームの場合は料金設定が比較的柔軟にできる面があるが、公的介護施設である特養ホームではそれも難しい。埼玉県のある特養ホームでは1対1・5の割合で職員を置く。手厚く雇う分は非常勤の職員を増やしたり、自動消灯にして電気代を節約したりしてやり繰りしている。
「施設回らぬ」
職員の男性は「国の人員基準では施設は回らない。意味のない数字だ」とした上で、「おおまかな施設の設計も自分でして費用を浮かせた。非常勤の職員の給料も最低賃金だ」と苦しい台所事情を明かす。
国の調査でも特養ホームの現実の人員配置は既に全国の平均で1対2となっており、基準を見直しても良さそうなものだ。厚労省は「現場の実情を考慮し介護報酬を算定している」と説明するが、報酬の底上げを求める事業者は多くかみ合っていない。
しかし意外なことに、現場では否定的な声も少なくない。配置が1対2になると今よりも5割も多い人手を確保する必要がある。「ただでさえ人が集まらないのに、最低基準が厳しくなればかえって事業者の首を絞める」(都内の介護事業者)
保険財政が逼迫し、介護報酬を増やすのも困難だ。税金と保険料でまかなう介護給付費は25年度に19兆8千億円と、12年度と比べて2・3倍に膨らむ。
介護・保育職員「定数超」多く、国の配置基準、形骸化―追加費は施設の持ち出し、成果に応じた報酬必要。
経営効率化を進めつつ、人員配置と現場の矛盾を解消するにはどうすればよいのか。一つの解は、介護報酬にインセンティブ(動機づけ)の視点を盛り込むことだ。
現状の仕組みでは、要介護度が改善すると介護報酬も減る。「支援のやり方次第では要介護度が改善する人も多い。頑張った人が報われる仕組みにしてほしい」(倉持氏)と語る介護事業者は多い。
身体状態の改善が報われれば、優良な事業者が多く報酬を確保でき、賃上げで人材も集まりやすい。競争力の高いところはサービスを手厚くでき、財源の配分にメリハリを効かせながら良質な施設を増やせる。国もインセンティブの仕組みを導入すべく検討中だ。
保育園についても工夫の余地はある。認可保育所の運営費は保育の質と関係なく一律。こまめにうつぶせ寝をしていないかチェックしたり、毎日外で遊ばせていたりと、きめ細かい保育をする事業者には加算で報いてほしいとの声がある。
「もう一つの解決策はICT(情報通信技術)の活用だ」と話すのは日本総合研究所の西沢和彦主席研究員だ。見守りや排せつなど、介護ロボットは現場に浸透し始めており、担い手不足をカバーする切り札の一つだ。
ICTを活用する施設は介護報酬を加算するといった支援も考えられる。介護人材は25年に38万人不足するとの推計もある。成果が正しく報われる仕組み作りと先端技術の活用。この2つが問題解決の鍵を握りそうだ。
日本経済新聞
2017年10月29日 10:04 PM | カテゴリー:社労士
