所得拡大促進税制の見直し
賃上げ・投資で法人減税、政府方針、実質負担25%に、優遇に差、抜本改革先送り。
政府は2018年度税制改正で、賃上げや設備投資に前向きな企業の法人税の実質的な負担を25%程度まで下げるしくみを導入する。高収益にもかかわらず賃上げや投資をしない企業は特別な減税措置を外し、政府が掲げる来年の春季労使交渉での「3%の賃上げ」に誘導する。ただ、賃上げ実現などに向けた部分的な税制の手直しにすぎず、日本の立地競争力強化に向けて抜本的な法人税改革を避けて通れない。
安倍晋三首相が「税制を含む大胆かつメリハリのきいた対策」を指示したのを踏まえ関係省庁が詰めを急いでいる。近く始まる与党の税制調査会で協議し、税制改正大綱に制度設計を盛り込む。
政府は法人実効税率を段階的に引き下げており18年度には29・74%になる予定だ。「実効税率」は基本的に国と地方の表面税率を足し合わせて計算するのに対し、様々な政策減税などを勘案した企業の法人税額が「実質負担」だ。今回の措置で実効税率は変わらないものの、政府の政策目的に沿った企業を選別して実質負担を下げる。
現行の「所得拡大促進税制」を見直す案が軸だ。賃上げした場合に一定額を法人税額から控除するもので、12年度の基準年から基本給に手当や賞与を加えた給与総額が一定割合増えていることなどが条件だ。15年度に中小を含め約9万件の利用があり、2700億円の減税効果があった。
18年度改正では3%以上賃上げした企業の税額控除を増やす方向。さらなる賃上げを促すため基準年を今の12年度ではなく例えば「前年度」などとしてルールを厳しくし、適用企業を絞り込む。
設備投資を増やした企業の減税も検討する。投資額が前年度に比べ増加した場合などを想定するが、機器の更新時期によって投資額が増減したり業界ごとの特性が強く出たりするといった問題もあり、制度を詰める。
課税所得が100億円の企業の場合、国と地方合計の法人税額は30億円弱だ。仮に25億円になれば税負担が2割近く減る。賃上げや投資によるコスト増をどこまで減税で相殺できるかが経営者の判断を左右しそうだ。
賃上げをしない企業に対するペナルティーも導入する。一定の条件を満たした企業の税を優遇する租税特別措置(租特)の一部を見直し、目標に達しなければ適用できなくする。
例えば研究開発費用の一部を税額控除する租特は製薬会社や輸送機器などの製造業9千社が利用している。同様の企業向け租特は100件弱で、これらが適用されなくなると実質的に法人の税負担が増す可能性がある。
ただ一時的な業績悪化などで賃上げできない企業で税負担が増すとさらにリストラが加速する恐れもあり、具体的な制度設計で課題は多い。
中小企業への税優遇も拡大する。新規に導入した機械などには固定資産税が0・7%かかるが、これを18年度から3年間ゼロにする。16年度に1・4%から税率を半減したが、さらに深掘りして設備投資を促す。
日本経済新聞
2017年11月21日 8:27 PM | カテゴリー:社労士