iPhoneXと違法な時間外労働

「iPhoneX」過重労働、中国工場、鴻海認める、調査を開始、実習生「10月から悪化」、顔認証で生産停滞後に負荷か。

 米アップルの最新型スマートフォン(スマホ)「iPhoneX(テン)」。その中国の工場で、学生が社内規則で定めた上限時間を超えて働くなどの過重労働を余儀なくされていた事実が明るみに出た。生産を手掛ける台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は問題を認め調査に乗りだした。「世界の工場」といわれる中国だが、ここ数年は人手不足の問題が顕在化。進出企業は労務管理の責任が厳しく問われている。

 「時間外労働は10月に入ってからますます悪化した」。中国中部の河南省、鄭州。世界のiPhoneの約半分を出荷するといわれる鴻海の中国子会社、富士康科技集団(フォックスコン)の巨大工場で従事する学生は記者に明かした。

 こうした学生は「実習生」として専門学校などから数千人が駆り出されているという。就業規則では実習生は1週間の労働時間が40時間を超えてはならないと定められている。強制はなかったが土日も働く状況が常態化していたとささやく。

 「X」は顔認証で画面ロックを解除する機能を新たに採用したが、部品の良品率が十分に高まらず量産が滞った。鴻海は遅れを取り戻そうと9月後半から一気に生産速度を上げたとされ、結果的に現場に過剰な負荷がかかり管理が行き届かなくなった可能性がある。

 別の学生は「インターンを終わらせないと学校を卒業できない」と話した。鴻海の工場での実習が学校のカリキュラムに組み込まれている。鴻海によると、こうした実習制度は「学生に就業の経験を与え、その後の就職を容易にするものだ」とは説明するが「必須の就労経験」は事実上の強制とも言える。

 英フィナンシャル・タイムズ(FT)は21日に同工場で違法な時間外勤務が行われていたと報道した。中国の労働規制でも基本的に労働時間は1日8時間、1週間で40時間を超えてはならないと定める。6人の高校生は日常的に11時間労働をしていると証言しており、FTは違法な時間外労働にあたると指摘した。

 鴻海は21日に「週40時間を上限とする社内規則が一部の工場で守られていなかった」と発表し、管理の不備を事実上認めた。既に実態調査と問題の是正を進めており「すべての工場への監督を強め、規則を厳格に順守させる」とした。

 実は鴻海による学生の強制労働が明らかになったのは初めてではない。2013年に山東省煙台市のゲーム機を製造する工場で学生に違法労働させていたことが発覚。今年も遼寧省瀋陽市の大学が7月から3カ月間、600人の学生を煙台工場に派遣して実習させたことが問題となった。

 ただ、鴻海の強みは中国の政府と一体となった低コストの仕組みだ。米アップルの製品を組み立てると、輸出が増えて税収が増えるため、多くの地方政府は積極的に誘致。鴻海に敷地や建屋だけでなく、従業員の宿舎や通勤用バスも事実上の無償で提供し、従業員の確保も約束する。このため、政府が学生を派遣する仕組みが定着しているのだ。学生なら賃金を安く抑えられる会社側の意図も透けて見える。

 中国での低コスト生産で成長した台湾の電子機器の受託製造サービス(EMS)は人件費の上昇で目下、厳しい状況に置かれている。鴻海は「X」の生産遅れと人件費の高騰が響き、17年7~9月期に56%の営業減益となった。同業大手の和碩聯合科技(ペガトロン)や仁宝電脳工業(コンパル)も売上高こそ伸びているが、コスト上昇を補えず大幅な営業減益に陥っている。企業は労働力確保の仕組みの透明性や公正性にも目を配る必要性が高まっている。
  
〓〓 台湾EMS大手4社の〓17年7~9月期連結業績 〓〓 
社 名 売上高 営業〓利益 
鴻海精密工業 10,788(微増) 187〓(▲56) 
和碩聯合科技(ペガトロン) 3,368(7) 43〓(▲44) 
広達電脳(クアンタ) 2,761(23) 48〓(▲19) 
仁宝電脳工業(コンパル) 2,316(17) 29〓(▲16) 
(注)単位億台湾ドル、カッコ内は前年同期比増減率%、▲は減少  

「iPhoneX」過重労働、中国工場、鴻海認める―中国、労働力が減少、高学歴化で。

 今回の問題の裏には「世界の工場」といわれた中国の労働力が減少している現実がある。特に若者は農村部も含め大学などに進む高学歴傾向が進んでいるため、鴻海精密工業を含めた中国の製造拠点は労働力の確保に苦労しているのが実態だ。

 「最近の5年間で労働力は2000万人近く減少した」。中国人民大学中国就業研究所の曽湘泉所長は指摘する。15~59歳の労働力人口は2011年のピーク時に9億2500万人いたが、毎年200万から500万人近くの規模で減少したため、現在は9億人強。さらに50年には7億人前後まで落ち込むという。

 特に15~24歳の青年層が高学歴志向などで減っており、06年の1億2000万人から20年には半分の6000万人まで減少する見通しだ。生活レベルが向上したため身体的につらい作業をさける傾向があり、離職率は30%台後半で推移する。

 この結果、賃金は10%前後で上昇するなど人件費の増加にもつながる。鴻海の鄭州工場では工場の従業員が新たな労働者を紹介した時には1000元(約1万7000円)の報奨金を支払うほか、紹介なしで新たに働く労働者には600元を支払うという。

日本経済新聞