職場のパワハラ
社員研修を徹底 スポーツの世界で、監督から選手へのパワーハラスメントが問題になっている。優位な立場を
利用したパワハラは、職場でも深刻だ。労働相談窓口には上司や同僚から暴言やいじめを受けたとの訴えが
増えている。厚生労働省が提言をまとめ、企業が対策に乗り出すなどの動きも出ている。どうすればパワハラを
防げるのか。外部に調査を委託 「下記の行為を行ったときは減給または訓戒。誹謗(ひぼう)中傷、風評、嘲笑
(ちょうしょう)、故意に無視、仲間外れ、実現不能な業務命令……。これらの行為を繰り返したとき降格または
出勤停止または減給。職場における暴行、脅迫、傷害、名誉毀損その他刑法犯に該当する行為を行ったとき
懲戒解雇――」 これは板金機械大手のアマダが、2010年に制定したパワハラ防止規程の一部だ。09年から
コンプライアンス教育の一環としてパワハラ防止に取り組んできた。ビデオ映像を活用した研修を行い、10年には
理解度を確認するアンケート調査を実施した。 さらに就業規則の一部だったパワハラを独立させた。「努力目標
だと効果がない。抑止力を強めるため行為を例示し、処分も決めた」と阿部敦茂総務・人事本部長。 社内外に
設けた窓口には年間を通してぱらぱらと相談があるが、記録に残すような深刻なケースは年間2件くらい。処分に
いたった例はまだなく、直属ではない組織の長から注意してもらうなどで穏便に解決できることが多い。異動させる
こともある。 「1990年代以降、リストラなどもあり部下が上司と気軽に話せる雰囲気が失われた。下から上へ
自由にものが言える雰囲気づくりが重要だ。外国人と一緒に働くグローバル職場も増えている。パワハラの
処分規定にひっかかるようではいい仕事はできない」(阿部本部長)。新任管理職を上司、部下、関連組織が
評価する制度もある。 ソニー銀行も「パワハラは許さない」との社長メッセージを繰り返し社員に伝え、講師を
招いての研修やビデオ研修を全員に受けさせている。中でも効果をあげているのが、10年以降、外部の
専門会社に委託して行っている「職場の健康診断」だ。 胸ぐらをつかむ、机をたたく・書類を投げるなど脅される
、説明のないまま仕事を突然変える――。調査では、パワハラだけでも20項目くらいあげて過去1年に受けたか
見聞きしたことがあるかを全社員に尋ねる。調査結果はフィードバック研修で全員に伝える。 「明確なパワハラ
が実際に行われていることに驚いた。人事部や相談窓口にはほとんどあがってこない。がまんしている人が多い
ということで、調査の大切さを感じた」(山城宏一郎人事総務部部長)。結果をうけて人間関係を壊さず相手にノー
といえる会話術を研修に取り入れた。 「企業にとって人が一番の財産。パワハラで実力を発揮できない社員が
いれば大きな損失。経営課題として取り組む必要がある」と山城部長は強調する。グレーゾーン多く 職場の
ハラスメント研究所代表理事の金子雅臣さんによれば、この5年で企業の理解は大きく進んだ。相談窓口や
就業規則をつくり、研修を行う企業も増えた。ただし「まだ形だけの企業が多い。強く言うと有能な管理職の意欲
をそいだり、権利主張ばかりする社員が増えたりするのではないかと戸惑っている」。 東京労働局には11年度
に5188件のいじめ・嫌がらせ相談があった。岩出順一統括労働紛争調整官は「多いのは言葉の暴力。無視も
目立つ。相手をやめさせるための明確ないじめもあるが、大半は判断が難しいグレーゾーン。企業は『調査した
がいじめは確認できなかった』と回答してくることが多い」と言う。 法律で禁止しているセクハラ(性的嫌がらせ
)と違い、パワハラは規定する法律がない。しかも力の不均衡があればどこでも起こりうる。日ごろの関係や言い方
ひとつでパワハラになる場合とそうでない場合もあり判断が難しい。 だが“暴言”や過度の叱責でうつ病になれば、
本人は不幸だし社会にとっても損失だ。「自分が思い込んでいても相手はそう取らないかもしれない。自分と相手
の感覚は違うと認識し丁寧に説明することが大切」(岩出調整官) 「昔は暴言くらい当たり前だった」との声もあるが、
人の尊厳を傷つける行為は許されない。マネジメント能力が低いと、パワハラを起こしやすいとの指摘もある。相手を
思いやる人間性と、風通しのいい職場環境が大切だ。(編集委員 岩田三代)いじめ・嫌がらせ 相談増える
職場のいじめ・嫌がらせに関する相談は増えている。2011年度に全国の窓口に寄せられた個別労働紛争相談は
約25万6千件。いじめ・嫌がらせは約4万6千件で解雇に次ぐ多さだ。前年度より約6千5百件増えている。
厚生労働省は11年7月に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」を設置し、12年3月に「職場の
パワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」を発表。パワハラの概念を定め、典型的な行為を6つの類型で示した。
周知のため「あかるい職場応援団」のポータルサイトをつくり、企業と従業員を対象に調査も実施。過去3年間に
パワハラ相談を受けた企業は45・2%、パワハラを受けたことがある人は25・3%といった実態が明らかになった。
ただし国の対策は始まったばかり。職場のハラスメント研究所の金子さんは「法律やガイドラインでパワハラをきちんと
定義し、調停などの解決手段も示すべきだ」と言う。
日本経済新聞
2013年2月20日 10:32 PM | カテゴリー:社労士