非正規雇用から正規雇用へ

働けない若者の危機を私たちはどう克服すればよいのか。処方箋は1つでは足りない。政治、企業、教育……。

日本社会の総力戦が必要だ。 正社員になりたいのに非正規労働を余儀なくされている15~34歳の

約170万人をどう救うか。「アベノミクス」の景気浮揚効果は彼らに及んでいるのか。進まぬ正社員化 「何とか

早く資格を取りたくて」。1月の連載第4部で取材した島中忠明(仮名、33)は自分を磨きたいと考え始めていた。

大学を出てからメーカー7社を派遣労働者として渡り歩いてきたが雇い止めが不安で、資格取得の学費を出せ

なかった。今なら「景気が良くなって正社員募集も増えるかもしれない」。 「いざなみ景気」終盤の2006~07年

ごろ、非正規で働く若年層を正社員に雇う中小企業が増えた。こんな動きが再現される兆しなのか。フルタイムの

新規求人は2月に45万2千人と、半年前より2万4千人増えた。 都内の家電量販店でKDDIの携帯電話を販売

する吉本剛(仮名、28)は、3月から雇用形態が派遣社員から直接雇用の契約社員に変わった。「待遇が良く、

やりがいがある」。KDDIは約2500人を3月末までに直接雇用に切り替え、有能な人を正社員に登用する制度

もつくった。 ただ産業界に正社員登用の広がりはない。企業の6割は「登用制度がある」としているものの実績

ゼロの企業も多い。非正規から抜け出したい若者の再挑戦を受け止める工夫が要る。 新卒採用で選考から漏れ、

フリーターなど非正規雇用で過ごしてきた人は企業内の訓練を受けていない。非正規に固定されるのを防ぐには

レールを離れた若者の技能を高める場を用意することと、彼らが身に付けた技能を評価して採用につなげる仕組み

が不可欠だ。英国を参考に 英国は1986年に始めた国民共通の職業能力評価制度(NVQ)を年間数十万人

が取得する。約800の職種ごとに技能を5段階で評価し、職業訓練と組み合わせて若者の再就職やキャリアアップ

につなげた。 日本は職歴や能力を証明する「ジョブカード」を08年度に導入したが採用に使う企業は約1万

6000社と全体の0・6%。カード取得者は79万人と「20年に300万人」の目標は遠い。 厚生労働省はハローワーク

のジョブカード交付業務を民間に開放する方針だが、失業給付を受ける際にカード取得を義務付けるくらいやって

はどうか。英国のように評価基準を確立し、能力向上が昇格や給与に反映するよう促すことも重要だ。 「いつまで

年金保険料を払えるか」。大学中退後、飲食店のアルバイトなどを転々としてきた田島裕二(仮名、30)は不安を

隠せない。今は貯金を切り崩してでも保険料を納めているが、安定した仕事は見つからない。 職務を明確にして

採用する「限定正社員制度」。ジョブカードと連動させれば非正規にあえぐ若者の受け皿になりうる。転勤がない

代わりに給与は正社員より低いことが多いが、社会保険が適用され、職務が続く限りは雇用される。 20代前半

の非正規割合は4割を超え30年前の4倍になった。放置すれば社会保障の崩壊、出生率の低下などを招きか

ねない。若者に活躍の場を与える知恵を社会全体でひねり出さなければならない。

日本経済新聞