賃金を上げると税額控除

税制改正、企業負担減が柱、財務・経産省の来年度案、賃上げ・承継後押し。

 財務省と経済産業省は2018年度の税制改正で、賃金を上げる企業と事業を後継者に引き継ぐ企業への税優遇を充実する方針だ。企業の生産性を高めるため、人材への投資と事業承継を支援する。米国が法人税率の引き下げを計画しており、企業には国際競争力の観点から税優遇を求める声が多い。企業から投資をうまく引き出す仕組み作りが課題となる。

 両省は大きな賃上げをする企業に減税をする制度を検討する。賃上げをする企業への優遇はすでにあり、15年度に2774億円の税額控除を適用した。ただ連合などの調査によると、17年の賃上げ率は15年と比べて縮小している。大きな減税の効果がうまく出ていない可能性がある。

 財務省は18年度改正では「賃上げを頑張った企業を大胆に支援する」(幹部)方針。安倍晋三首相は3%の賃上げを目指すと表明しており、賃上げ率が大きい企業ほど恩恵が大きい仕組み作りが有力だ。

 企業が賃上げしやすくするために、生産性を高める投資への減税も検討する。業種の異なる企業の生産設備やデータをつなげ、技術革新につなげる新しい産業連携「コネクテッド・インダストリーズ」への税制優遇なども議論する。

 中小企業向けには事業承継を後押しする税制優遇を充実する。東京商工リサーチによると16年の休廃業・解散件数は2万9583件と過去最多。経営者の平均年齢も61・19歳と年々上昇している。相続税や贈与税は納税猶予制度があるが、15年の適用件数は515件にとどまっている。

 現在は5年間にわたって雇用の8割を維持することなどを条件に、発行済み株式総数の3分の2について、8割までは納税を猶予される。こうした条件を緩める方針だ。自民党税制調査会の宮沢洋一会長も「中小企業の経営者の平均年齢を40代にするくらいの大きな政策で、経営者の若返りをはかる」と話しており、抜本的な改革を急ぐ。

 財務・経産両省が賃上げや事業承継をする企業への税優遇を充実するのは、安倍晋三首相が政策の両輪に掲げる人づくり革命や生産性革命を進めるためだ。

 企業の経常利益は過去最高に達するが、賃上げの動きは逆に鈍っている。中小企業は後継ぎが見つからず、黒字でも廃業せざるを得ないケースがある。こうした現状を前向きな動きに変えるには税優遇による後押しが必要との考えで財務省と経産省は一致している。

 政府は14年度税制改正までは37%だった法人税の実効税率を18年度には29・74%まで下げる予定だ。政府は投資に前向きな企業を後押しするが、世界的な競争を見据える企業からは一段の税優遇を求める声も出そうだ。

日本経済新聞