転勤ルール

転勤ルール、社員に配慮、採用に「自宅から通勤圏内限定」追加、パートも視野、「無期雇用」転換にらむ。

 辞令1枚でどこへでも転勤するのは日本企業の正社員なら当たり前と考えられてきた。ただ、最近は育児や介護など様々な理由で転勤を望まない社員も増えている。多様な働き方に対応しようと、制度の運用を見直す企業も出始めている。

 転勤のルールそのものについて労働基準法などに規定はない。各社の就業規則で勤務地を限定していなければ、社員の同意なしに転居を伴う配置転換が認められてきた。

 判例も会社側の権利を認めている。仕事を持つ妻、幼い子供、高齢の母と暮らす男性社員が転勤を拒否して懲戒解雇になったのは無効だと争った訴訟では、1986年に最高裁が、転勤で被る不利益を「通常甘受すべき程度」とし、懲戒解雇は有効と判断している。

 だがここに来て状況が変わる兆しも出始めた。すかいらーく人財本部人財企画グループの匂坂仁ディレクターは「採用面接時、地元に残りたいので自宅からの通勤圏内で働く正社員を希望する学生が増えた」と話す。

 労働政策研究・研修機構の2016年の調査によると「できれば転勤したくない」と考える正社員は全体の4割にのぼる。産業能率大学が新入社員を対象にした調査では「一度も転勤せずに同じ場所で働き続けたい」とする人も3割弱。育児・介護休業法は、転勤で育児や介護が困難な社員には状況を配慮しなければならないと定める。

 企業側も対応に動いている。すかいらーくと中核事業子会社のすかいらーくレストランツは14年から、2社合計で4千人強の正社員の雇用形態を、転勤の有無や範囲などで4区分。18年春入社の新人からは、従来「海外含め転勤あり」の社員のみだった採用に「異動を自宅からの通勤圏内に限る」社員も加えた。

 モスフードサービスの子会社でハンバーガーチェーン店を展開するモスストアカンパニーも、正社員約320人を勤務地別で全国、一定の地域、自宅からの通勤圏内と3区分に分けている。

 18年4月にはパートなどで働く人の雇用ルールが変わる。労働契約法の改正を受け、有期契約で5年超働く人が申し出れば企業は無期雇用に転換しなければならない。このルール変更も、企業の動きを後押ししそうだ。

 無期転換しても正社員になるかどうかは企業の取り決めによる。ただ、すかいらーくなどの取り組みは無期転換ルールもにらんだものという。同社ではさらに、新人の正社員でも1年たてば、転勤がない社員に変更することも可能にしている。

 逆に、将来転勤可能な人材を発掘しようという例もある。モスは17年から、店舗で働くパートなどの有期社員のうち優れた人材を正社員に登用する取り組みを始めた。田口学俊取締役は「無期契約化で雇用条件を変える予定はないが、正社員として全国で働ける人材も見いだしたい」と話す。

 多様な働き方が増え、専門家の間では、最高裁が示した「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」かの線引きも変わってくるとの声もある。今津幸子弁護士は「企業の人事権が広く認められていること自体は変わりないが、事実上、社員を転勤させる裁量は狭まりつつある」とみる。
 社員の希望と適切な人員配置をどう両立させるか。「働き方改革」でも議論を深める必要がありそうだ。

【表】転勤命令の有効性を判断する法的基準  
会社側 社員側 
業務上の必要性の有無 通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無 
↓ ↓ 
社員を退職に追い込むためなど不当な動機や目的がなければ必要性はほとんど認められる 高齢の親の重い介護負担などかなりの不利益がなければ拒否できない 

日本経済新聞