シニア社員に成果重視の賃金制度の助成金

シニア社員に成果重視の賃金制度の助成金
シニア社員の処遇を改善する動きが企業に広がってきた。60歳の再雇用時に減額されることが多かった基本給を引き上げるだけでなく、成果報酬の導入や責任の重いポストの用意で就労意欲を高めるようとしている。政府が目指す70歳まで働く社会づくりにはシニアの活躍が欠かせない。厚生労働省はこうした流れが中小企業にも浸透するよう補助金で後押しする。
60歳以上で働く人の数は2017年度平均で約1340万人。就業者全体の2割を占める。高年齢者雇用安定法では希望者全員を65歳まで雇うよう義務づけており、就業者は増えている。
厚労省によると65歳まで雇用を確保するために企業が導入しているのは8割が継続雇用制度だ。60歳で定年を迎えると嘱託などで再雇用する。この際、賃金は2~3割下がるのが一般的。60~64歳の平均賃金は月27・5万円と55~59歳の36・4万円を大きく下回る。
ただ、年齢を理由に一律で賃金を下げる仕組みは働き手の意欲低下につながりかねない。能力のある技術者らは中国など新興国の企業に転職する動きもあり、人材流出につながる面もある。
こうしたなか、就労意欲を高めるためにシニアの処遇を見直す企業が増えている。味の素AGFは18年7月から60~65歳の再雇用のシニア社員の給与体系を見直し、賞与も成果を反映するように制度を変えた。これによって年収は従来と比べて3割増えるという。
週休3日制を導入したほか、勤務地の希望も出せるようにして、シニア社員の待遇を改善し、働き手を確保する狙い。若手へのノウハウ伝承などに力を発揮してもらう。 JR西日本は18年度から再雇用したシニアの基本給を加算する待遇改善に合わせて、働きぶりに応じた給与で報いる姿勢を鮮明にした。出勤日数に固定額で支払う「精励手当」を勤務成績が「優秀」なシニアだと4万円から5万円に増額。「特に優秀」だと6万円から10万円にアップさせた。
一方、出勤停止になったり、勤務成績がよくない場合は減額したりしてメリハリをつける。「一層の活躍に期待し、モチベーション高く業務に精励してもらうため」と担当者は狙いを話す。
ポストで処遇する企業もある。自動車部品メーカーのヨロズは70歳まで雇用年齢を引き上げたのに合わせて1年契約でそのまま管理職を続けてもらう「職制契約社員制度」を設けた。従来の嘱託社員だと給与は定年前の7割の水準に下がるが、同制度の社員だと減額なしで100%もらえる。
ベアリング大手のNTNも18年度から再雇用シニアの給与を年収ベースで25%引き上げた。プロジェクトリーダーなど一部役職への任用もできるようにしており、経験を生かして専門能力を発揮してもらう。
大手よりも人手不足が深刻な中小企業にもこうした取り組みを広げようと、厚生労働省はシニア社員を対象に成果重視の賃金制度を導入する企業に補助金を出す。年齢ではなく人事考課によって給与が変動する職務給の比率を高めるなど給与制度を見直した場合に1社あたり最大22万5千円の補助金が出る。財源は雇用保険から拠出する。
15~64歳の生産年齢人口は40年に6千万人を割り込み、15年と比べて1600万人余り減る見込みで、経済成長を続けるには高齢者の労働参加が欠かせない。ただ企業が人件費を増やさずにシニアの処遇を厚くすると60歳未満の賃金水準が下がりかねない。人件費増を吸収する生産性の向上や、年齢ではなく能力に応じた給与・人事体系にすることが重要になる。
日本経済新聞